老後資金の総額を、あなたは一つの数字で思い浮かべられるでしょうか。「2000万円」という言葉は耳に残っていても、その数字がどんな掛け算から出てきたのかまで説明するのは、案外むずかしいものです。

私たちも、毎年1月に老後資金の目標額を見直すたびに、同じところで手が止まってきました。ここでは、私たちが試しに計算してみた流れと、途中でつまずいた点、そのあとに整理した総必要額の出し方を順にたどっていきます。

総必要額は、どんな掛け算から見えてくる?

出発点にしたのは、金融審議会市場ワーキング・グループの報告書「高齢社会における資産形成・管理」(2019年6月3日公表)の考え方です。日経ビジネスの記事では、2017年の家計調査をもとに、夫65歳以上・妻60歳以上の無職世帯で毎月約5万円の赤字が出て、その後30年生きると仮定し、単純な掛け算で約2000万円という数値を導いたと説明されています。

つまり、総必要額の骨組みは「月の不足額×12か月×年数」です。私たちはまず、この式に新しい数字を入れてみました。

生命保険文化センターのページでは、総務省「家計調査」の2025年平均をもとに、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の可処分所得を月約22.2万円、消費支出を月約26.4万円と紹介しています。差は月42,000円、年に直すと504,000円です。これを30年分と置くと、約15,120,000円になります。

平均の家計をそのまま当てはめただけの、仮の試算です。それでも「2000万円」という数字だけを眺めていたときより、式の中身が自分たちの手元に戻ってきた感覚がありました。

何年分と置くかで、総額はどれだけ動く?

最初につまずいたのは「年数」でした。30年という置き方は一つの仮定であって、私たちの家計に合うかどうかは別の話です。

厚生労働省が2026年7月24日に公表した令和7年簡易生命表では、65歳時点の平均余命は男性19.68年、女性24.52年です。同じ月42,000円の不足が続くとしても、何年分と置くかで総額は次のように変わります。

月の不足額が同じでも、年数の置き方で変わる総額
年数の置き方 総額
65歳男性の平均余命(19.68年) 約9,918,720円
65歳女性の平均余命(24.52年) 約12,358,080円
30年 約15,120,000円

夫婦で暮らす場合、どちらかが一人になってからの年数も残ります。平均余命はあくまで平均で、それより長くなることもあります。私たちは夫の年数で数えるか、妻の年数で数えるかで話が止まり、一つに決めずに、短めと長めの二つを並べて書くことにしました。

年金の額は、そのまま生活費から引いていい?

二つめのつまずきは、年金額の扱いです。日本年金機構のページでは、令和7年度(2025年4月分から)の夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額(モデル年金)を月額232,784円としています。年金額は年度ごとに改定されるため、この式に入れるときは、その時点の日本年金機構のページで最新の額を確かめておく必要があります。

これを消費支出の月約26.4万円から引くと、不足はもっと小さく見えます。ただ、家計調査の可処分所得は税や社会保険料を差し引いた後の所得です。年金の額を並べるときは、それが額面なのか手元に残る額なのかを揃えておかないと、不足額の見え方がずれてしまいます。

もう一つ、モデル年金は標準的な世帯を想定した額で、私たちの見込み額ではありません。夫婦それぞれの見込み額は、ねんきん定期便から年金の見込み額を確認する手順で書き出すところから始めました。

私たちは、総必要額をどの順番で出している?

二つのつまずきを踏まえて、手計算の順番を次のように並べ直しました。

  1. 夫婦それぞれの年金見込み額を書き出し、額面か手取りかを横に書き添える。
  2. 今の家計簿から、退職後も続きそうな月の生活費を拾い出す。
  3. 生活費から年金の月額を引き、月の不足額を出す。
  4. 不足額に12を掛けて年額にし、短めと長めの二通りの年数を掛ける。
  5. 退職金の見込みや、すでに準備してきた資金を差し引き、これから積み上げる額を確かめる。

5番目の退職金は、見込み額そのものがはっきりしないと手が止まりがちです。私たちは退職金の控除額と1/2の式を使った計算で、おおよその額を置いてから差し引いています。

手計算のあとは、何で確かめる?

金融庁のライフプランシミュレーターでは、年齢や家族構成、収入、退職金の予定、公的年金、生活費、貯蓄額を入れると、将来の家計収支をキャッシュフロー表やグラフで試算できます。結果は目安とされていますが、手計算の総額と並べると、どの入力が総額を大きく動かすのかが見えやすくなります。

手計算の二通りの総額を先に紙に書き、同じ前提をシミュレーターに入れて見比べると、数字が合わないときに、月額と年額、額面と手取りがどこかで混ざっていないかを確かめるきっかけになります。

総必要額は、一度出して終わりの数字ではなく、年数や年金の見込みが変わるたびに動く数字です。一つずつ確かめながら積み上げていく途中で、見え方も少しずつ変わっていきます。

先日の棚卸しのあと、式を書いた紙を眺めていた妻が「年数を二つ書いておけば、どっちになっても慌てずに済むね」と言い、夫は「来年の1月は、その横に年金の手取りも書き足そうか」と返しました。