老後のお金が不安だと感じたとき、その不安がいくらの話なのか、言葉にできるでしょうか。「足りないかもしれない」という気持ちは、数字がぼんやりしているほど大きくなりがちです。私たちも毎年1月に老後資金の目標額を見直すたびに、この問いに戻ってきます。

その不安は、いくらに置き換えられる?

最初に確かめたのは、老後の収入のうち金額がはっきりしている部分です。日本年金機構のページでは、令和8年度の老齢基礎年金の満額は月額70,608円(昭和31年4月2日以降生まれの場合)とされています。

ここからは仮の置き方ですが、夫婦がそろって満額を受け取るとすると、月額は141,216円、年額では1,694,592円です。一人分の年額は847,296円になります。私たちの場合は厚生年金の部分も加わりますし、受け取りまでの加入状況でも数字は変わります。それでも月と年を分けて書き出すと、不安が「どの欄の話か」に少し近づきました。

私たちは、どこでつまずいた?

数字を並べても、気持ちが追いつかない時期はあります。2020年3月、相場が大きく揺れたとき、私たちは積立を止めるかどうかで言い合いになりました。老後のために続けているお金が、目の前の不安で真っ先に削られそうになったのです。

もう一つは、保険の見直しを先送りして払いすぎていたことです。どちらも、数字を落ち着いて確かめる前に「不安だから動く」「不安だから触れない」の両端に寄っていたのだと振り返っています。

落ち着いて見直すなら、どこから見る?

視点1 制度の数字は、毎年動くものとして持つ

厚生労働省の発表では、令和8年度の年金額は国民年金(基礎年金)が1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%の引き上げで、令和8年1月23日に公表されました。改定には物価変動率3.2%より低い名目手取り賃金変動率2.1%が用いられ、マクロ経済スライドによる調整も入っています。年金額が増える年でも、物価と同じだけ増えるとは限りません。私たちは試算を確定した答えではなく、毎年書き換える下書きとして扱っています。

視点2 使える制度の条件が変わっていないか確かめる

iDeCoでは、確定給付企業年金(DB)等に加入する会社員等の拠出限度額が月額1.2万円から2万円に引き上げられ、2025年1月分の掛金から適用されました(厚生労働省の周知資料)。差は月8,000円、年額では96,000円です。当てはまるかは勤め先の制度で変わるため、夫婦それぞれが確かめる項目だと考えています。

NISAも2024年1月からの制度で非課税保有期間が無期限になり、年間投資枠は最大360万円、生涯の非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠1,200万円まで)と、金融庁のページで示されています。枠の内訳は新NISAのつみたて投資枠・成長投資枠と非課税保有限度額の整理にまとめました。

視点3 使う時期の違うお金を、分けて眺める

2020年3月に言い合いになった理由を今考えると、近いうちに使うお金と、20年以上先に使うお金を一つの残高として見ていたことにありました。使う時期で分けて眺めると、長く置くお金が揺れても、すぐ暮らしに響くわけではないと整理しやすくなります。どう分けるかは家庭ごとに違うので、あなたの暮らしの予定から考えてみてください。

次に不安になったとき、何を手元に置く?

不安が消えることはなくても、「分かっている年金の数字」「毎年動く制度の条件」「使う時期ごとのお金」に分けると、話し合う場所が見えてきます。ご自身の見込み額は、ねんきん定期便から年金の見込み額を確認する手順で確かめられます。

棚卸しの席でこの3つを書き出したとき、夫がぽつりと言いました。「怖かったのは、数字を見ないでいた時間のほうだったのかもしれないね」。