毎年1月、お正月の飾りを片付け終えたころに、私たちは夫婦で老後資金の目標額を見直しています。月末の棚卸しよりも少し長く食卓に座り、前の年に積み立てた額と、これから先の計画を並べて眺める日です。
その席で毎回のように話題にのぼるのが、新NISAの枠の数字です。つみたてNISAを2018年から続けてきた私たちでも、新しい制度の上限額を並べてみると、「1年ごとの枠」と「生涯の枠」がどうつながっているのか、すぐには腑に落ちませんでした。この記事では、私たちが紙に書き出した試算と、その途中でつまずいた点をたどりながら、新NISAの基本を整理していきます。
新NISAの枠は、どんな数字でできている?
試算に入る前に、制度の骨組みを確かめておきます。新NISAには「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つの枠があり、両方を併用できます。金融庁のNISA特設ウェブサイトでは、1年間に投資できる上限額と、生涯にわたって非課税で持てる上限額が、次のように示されています。
| 項目 | つみたて投資枠 | 成長投資枠 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 年間投資上限額 | 120万円 | 240万円 | 360万円 |
| 非課税保有限度額 | 総枠を共有 | うち1,200万円まで | 1,800万円 |
このほか、非課税で保有できる期間は無期限です。利用できるのは、口座を開設する年の1月1日時点で18歳以上の、日本国内に住んでいる人とされています。私たちも最初はこの表だけで分かったつもりになっていましたが、自分たちの数字を当てはめてみると、見え方が変わりました。
1,800万円の枠は、何年あれば埋まる?
1月の見直しで私たちが最初に書き出したのは、「年間の上限いっぱいに投資し続けたら、生涯の枠は何年で埋まるのか」という計算でした。
2つの枠を合わせた年360万円を毎年使い切ると、総枠1,800万円は5で埋まります。つみたて投資枠だけを上限まで使う場合は年120万円なので、15かかる計算です。年120万円を月額に直すと、100,000になります。
とはいえ、私たちの家計から毎月その額を出し続けるのは現実的ではありません。そこで、ここからは仮の例として、毎月の積立額を変えたときに総枠を埋めるまでの年数を並べてみました。
| 毎月の積立額(月額) | 年額 | 総枠を埋めるまで |
|---|---|---|
| 100,000 | 120万円 | 15 |
| 5万円 | 600,000 | 30 |
| 3万円 | 360,000 | 50 |
表にしてみると、上限まで使い切るかどうかよりも、自分たちが続けられる額で、どのくらいの年月をかけて枠を使っていくのかを見るほうが、私たちには手触りのある数字でした。毎月の積立額と期間から将来の金額を見通す方法は、積立額と期間から将来の金額を試算する方法の記事で扱っています。
40代の私たちに当てはめると、月5万円のペースでは、総枠を埋め終えるころには70代になっています。月3万円なら、さらにその先です。数字を眺めながら、「枠を埋めること」と「老後に使うお金を準備すること」は、同じ話のようで少し違うのだと、二人で確かめ合いました。
試算の途中で、どこにつまずいた?
数字そのものは難しくないはずなのに、紙の上で並べていくと、私たちは何度か手が止まりました。どれも制度の説明を読めば書いてあることですが、自分たちの数字に置き換えようとした途端に、見落としに気づいたのです。振り返ると、つまずいた点は4つありました。

2つの枠は、どちらかを選ぶものだと思っていた
最初は、つみたて投資枠と成長投資枠を「どちらか一方を選ぶコース」のように受け取っていました。実際には2つの枠は併用でき、同じ年に両方を使うこともできます。ここを取り違えたままだと、試算の前提そのものがずれてしまいます。
年間の枠と生涯の枠を、別々の財布のように並べていた
次に、年360万円と総枠1,800万円を、それぞれ別に使える2つの財布のように書き出してしまいました。年間投資上限額は1年ごとに投資できる額の上限で、非課税保有限度額は、その積み重ねで非課税のまま持てる額の上限です。毎年の枠を使い続けても、総枠の1,800万円を超えて非課税で持つことはできない、という関係になっています。
成長投資枠だけで1,800万円まで使えると思っていた
3つめは成長投資枠の扱いです。総枠は1,800万円ですが、そのうち成長投資枠だけで使える上限は1,200万円です。成長投資枠の年240万円を毎年使うと、この上限には5で届きます。総枠を使い切ろうとすると、少なくとも6,000,000はつみたて投資枠で使う計算になります。
値上がりすると枠が減ってしまうと思っていた
最後は、「持っている商品が値上がりしたら、その分だけ枠を使ってしまうのではないか」という心配でした。金融庁のよくある質問のページでは、非課税保有限度額は簿価残高、つまり買付けたときの金額で管理されると説明されています。先ほどの表の年数も、この考え方に沿って、買付けた金額だけで数えています。
数字を、自分たちの計画にどう置き直す?
つまずいた点を一つずつほどいてから、私たちは新NISAの数字を次のように整理し直しました。
- 年間投資上限額は、1年に使える入口の広さ。つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円、合わせて360万円です。
- 非課税保有限度額は、生涯で非課税のまま持てる器の大きさ。総枠は1,800万円で、成長投資枠だけなら1,200万円までです。
- 非課税保有期間は無期限。器を何年かけて満たしていくかは、それぞれの家計の事情に合わせて考える余地があります。
つみたて投資枠を中心に使う場合も、成長投資枠を組み合わせる場合も、非課税で持てる器は総枠1,800万円の一つだけです。2つの入口の使い分けは、その器の中でのやりくりだと考えると、枠同士の関係が見通しやすくなりました。
入口と器を分けて考えるようになってから、1月の見直しで話が行き違うことが減りました。「今年はいくら入れるか」と「生涯でどこまで使うか」を、別々の問いとして話せるようになったからです。
2020年3月、私たちは積立を止めかけて、夫婦で言い合いになったことがあります。あのときは目の前の残高の動きと、何十年も先の計画を、同じ机の上で比べてしまっていました。保有期間に期限がないという仕組みを知ったうえで数字を見ると、短い値動きと長い計画を分けて考えるきっかけになる、と今は感じています。
上限まで使い切ることを目標にするかどうかは、家庭ごとに違ってよいと私たちは考えています。枠の数字は、急いで埋めるためのものというより、自分たちの計画がいまどのあたりにあるのかを確かめる物差しとして、手元に置いています。
次の1月を待たずに、何を書き出してみる?
新NISAの上限額は、並べるだけだと大きな数字に見えるかもしれません。けれど、年ごとの入口と生涯の器を分けて見ると、あなたの家計にとっての意味が少しずつ輪郭を持ちはじめます。
もし今日、一つだけ手を動かすとしたら、いま積み立てている毎月の額を12倍して年額に直し、つみたて投資枠の年120万円の横に書き添えてみる、という方法があります。その年額が120万円のどのあたりにあり、総枠を埋めるまでに何年ほどかかるペースなのか。答えを出すためではなく、自分の立ち位置を知るための一行です。その一行が、次の見直しの席で話を始める足がかりになるかもしれません。