「新NISAを続けていれば、老後のお金はそれで足りるのだろうか」。あなたも、そんなふうに考えたことはないでしょうか。

同じ問いを持つ人は増えているように感じます。金融庁の発表を伝えた日本経済新聞の記事(2026年2月18日)では、2025年12月末時点のNISA口座数は約2,826万口座(前年同期比10%増)、累計買付額は約71兆円(同36%増)とされています。私たち夫婦は2018年からつみたてNISAを続けてきましたが、「新NISAだけで老後資金は本当に足りるのか」を正面から計算したのは、少し後になってからでした。

平均の不足額を、新NISAの枠に重ねたらどう見える?

まず、公表されている平均の数字を借りて試算してみました。私たち自身の家計ではなく、平均を置いた仮の例です。

生命保険文化センターのページでは、総務省の家計調査(2025年平均)をもとに、高齢夫婦無職世帯の可処分所得は月額約22.2万円、消費支出は月額約26.4万円で、月あたり約4.2万円の不足があると整理されています。この月額を年額に直して30年分を重ねると約1,512万円、25年分なら約1,260万円です。

一方、金融庁のページでは、2024年1月に始まった新NISAについて、つみたて投資枠は年120万円、成長投資枠は年240万円、非課税保有限度額は生涯で合計1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)、非課税で持てる期間は無期限と説明されています。数字だけを並べると、30年分の不足額は1,800万円の枠に収まります。つみたて投資枠だけで枠を使い切るなら、15年かかる計算です。

30年分の不足額を、運用益を見込まずに20年で積み立てるとすると、毎月約63,000円。食卓でこの数字を書いたとき、「枠には入るけれど、毎月の額としては軽くない」というのが二人の最初の感想でした。

「2,000万円」を目標にしかけて、どこでつまずいた?

最初のつまずきは、「老後は2,000万円」という数字を、そのまま自分たちの目標にしかけたことです。

月の不足額を30年分に換算した金額 月の不足額を30年分に換算した金額 単位:万円 0 500 1,000 1,500 2,000 2017年データ(月54,519円) 2024年データ(月34,058円) 2025年平均(月約4.2万円) 1,963 1,226 1,512

月の不足額を30年分に換算した金額(単位:万円)
項目 30年換算の不足額
2017年データ(月54,519円) 1,963
2024年データ(月34,058円) 1,226
2025年平均(月約4.2万円) 1,512
出典:老後の生活費はどれくらい?|公益財団法人 生命保険文化センター/金融審議会「市場ワーキング・グループ」報告書「高齢社会における資産形成・管理」の数値根拠(生活経済研究所長野コラム)

この数字は、2019年の金融審議会の報告書が、2017年の家計調査にあった月54,519円の不足を12か月×30年で掛けた約1,963万円が元になっています。同じ考え方で2024年のデータを当てはめると、月の不足は34,058円、30年で約1,226万円になるという再計算もあります(生活経済研究所長野のコラム)。また、この報告書は公表8日後の2019年6月11日に、当時の金融相が正式な報告書として受け取らないと表明し、事実上撤回されています。

どの年の平均を使うかで、30年分の不足額は数百万円単位で動きます。平均から出した一つの数字を、自分たちの答えのように扱っていたことに、あとから気づきました。

利回りを入れた瞬間、何が見えにくくなった?

もう一つのつまずきは、想定利回りです。シミュレーターに年率を入れると、必要な毎月の積立額はぐっと小さく見えます。ただ、金融庁のつみたてシミュレーターには、将来の結果を予測・保証するものではないと明記されていて、利回りは使う人が自分で入れる形です。「この利回りなら足りる」と言い切れる公的な標準値はありません。

私たちは2020年3月、相場が大きく揺れた時期に積立を止めかけ、夫婦で言い合いになりました。画面の中の利回りは一定でも、実際の値動きの中で続けるのは別の話だと、そのとき身にしみました。利回りの置き方で結果がどう変わるかは、新NISAで老後資金をどれくらい貯められるかを月額別に試算した記事で並べています。

新NISAを、老後資金のどこに置けばいい?

二つのつまずきを経て、私たちは新NISAを「老後資金そのもの」ではなく、「非課税で育てられる器」として見るようにしました。器の大きさは決まっていても、中に何をどれだけ入れ、どう育つかは家計ごとに違います。足りるかどうかを考える順番も、次のように整理し直しました。

  1. 老後の月の支出と収入を見積もり、月の不足額を出す
  2. 不足額を年額に直し、老後の年数を掛ける
  3. iDeCoや預金など、新NISA以外で用意できる分を差し引く
  4. 残りを、積み立てられる年数で割って月額にする

収入の側も毎年動きます。日本年金機構のページでは、2026年度の夫婦の厚生年金モデル年金額は月額237,279円(前年度比+2.0%)とされています。私たちが毎年1月に目標額を見直しているのは、こうした前提の変化を取り込むためでもあります。月の不足額の出し方は、「月の不足額×年数」で老後資金を試算する記事にまとめています。

あなたの数字を、どこから置いてみる?

新NISAだけで足りるかどうかは、制度の枠の大きさではなく、あなたの家計の不足額と、積み立てられる年数で見えてきます。平均の数字は出発点にはなっても、そのまま答えにはなりません。

今夜、手帳の端に「老後の月の不足額」を一行だけ書いてみてはどうでしょうか。おおよその数字でも、その一行があるだけで、新NISAの枠をどこまで使うかを落ち着いて考えやすくなります。