退職金を受け取ったあと、そのお金は何年、暮らしの足りない分を支えてくれるでしょうか。金額ではなく「年数」で考えてみたことはあるでしょうか。

私たちは毎年1月に老後資金の目標額を見直しています。今年はその席で、退職金を「何年もつか」に置き換える計算を紙と電卓で試しました。やり方は単純ですが、途中で何度か手が止まりました。その試算と、つまずいた点、整理した考え方を順にお伝えします。

退職金は、月の不足を何か月分埋められる?

計算の骨組みは「取り崩せるお金÷1か月の不足額」です。答えは月数で出るので、12で割ると年数になります。形成してきた資産が老後の暮らしの中で尽きるまでの期間は「資産寿命」と呼ばれ、2019年の金融審議会市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』で使われた考え方です。

ここでは私たち自身の金額ではなく、公表されている平均値を置いた仮の例で計算しています。退職金は、厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」(2023年10月31日公表)にある、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で勤続35年以上の定年退職者の平均退職給付額2,037万円です。月の不足額は、生命保険文化センターの解説にある総務省「家計調査」2025年平均の数字を使いました。高齢夫婦無職世帯の可処分所得は月約22.2万円、消費支出は約26.4万円で、差は月約4.2万円です。

2,037万円を4.2万円で割ると約485か月、年数にすると約40.4年になります。

退職金2,037万円を月の不足額で割った場合
月の不足額 年あたりの不足額 もつ年数の目安
約4.2万円 504,000円 約40.4年
5万円 600,000円 約34年

出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」、総務省「家計調査」2025年平均。税と運用益は含めていません。

数字を並べたとき、どこで手が止まった?

月額と年額が混ざっていた

最初のつまずきは単位でした。退職金は一度に受け取る総額、不足額は月額です。メモの途中で年額の不足と月額の不足が混ざり、桁の違う答えが一度出ました。月約4.2万円の不足は、年にすると504,000円です。割る前に、どちらも「月」か「年」にそろえるようにしました。

不足額が少し変わるだけで、年数が大きく動いた

金融庁の報告書『高齢社会における資産形成・管理』(2019年6月3日公表)では、2017年の家計調査をもとに、年金だけで暮らす高齢夫婦無職世帯に毎月約5万円の赤字が生じ、30年間で約2000万円が不足するという試算が示されていました(日経ビジネスの記事)。同じ2,037万円でも、不足が月5万円なら約34年です。月1万円に満たない差で、年数は約6年縮みます。平均の不足額が、わが家の不足額と同じとは限りません。

額面を、そのまま割っていた

退職金は「退職所得」として税を計算します。国税庁のページでは、退職所得控除額は勤続20年以下なら「40万円×勤続年数(最低80万円)」、20年超なら「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」です。課税の対象は「(収入金額−退職所得控除額)×1/2」で、特定役員退職手当等には1/2が適用されません。

勤続35年で当てはめると控除額は18,500,000円、2,037万円との差を半分にした935,000円が課税対象の退職所得です。使える額で考えるなら、税を差し引いてから割り直す必要がありました。控除額の出し方は、控除額と1/2の式で退職金を試算した記事でも追っています。

運用しながら取り崩すと、答えが一つにならない

2020年3月、私たちは相場の下落で積立を止めかけ、夫婦で言い合いになりました。取り崩しの時期に同じような下落が来たらと考えると、割り算の答え一つでは心もとなく感じました。

「何年もつか」は、どんな順番で確かめる?

つまずいた点を踏まえて、私たちは次の順に整理しています。

  1. 取り崩せる額を書き出す:退職金の額面から税を差し引き、すぐに使う予定のお金を除きます。
  2. 月の不足額を出す:平均値ではなく、自分たちの見込みの支出と収入の差を月額で書きます。
  3. 単位をそろえて割る:取り崩せる額を月の不足額で割り、12で割って年数にします。
  4. 不足額を上下に動かす:月1万円ほど増減させ、年数の幅を見ます。

家計全体の流れで確かめたいときは、金融庁のライフプランシミュレーターがあります。年収・退職金・公的年金などの収入と生活費などの支出、家族構成を入れると、将来の家計収支をキャッシュフロー表やグラフで確認できます。

運用しながら取り崩す場合は、三菱UFJアセットマネジメントの取り崩しシミュレーションのように、初期資産・想定リターン・想定リスクを入れ、乱数を使うモンテカルロ法で「何年取り崩しを続けられるか」「毎月いくら取り崩せるか」を複数のシナリオで見られるツールもあります。答えを幅で受け取れる点が、私たちには合っていました。月の不足額そのものの出し方は、「月の不足額×年数」で老後資金を見る試算の記事にまとめています。

割り算の答えを、どう受け止めておく?

約40.4年と出ても安心とは言えず、約34年だから足りないとも決められません。平均値の例は、自分たちの数字を入れる前の目盛りのようなものです。同じ調査では、退職給付制度がある企業の割合は74.9%で、前回2018年調査の80.5%から下がっています。退職金があるか、いくらになりそうかを勤め先で確かめるところから、計算の入り口は人によって違います。

一つずつ自分たちの数字に置き換えながら、年数の幅を眺めていきましょう。

電卓を置いたあと、妻がぽつりと言いました。「何年もつか、の次は、何年もたせたいか、だね」。