「当面使う予定のないお金だから、少し動かしてみてもいいのでは」。そう考えたことはないでしょうか。余剰資金という言葉には、失っても暮らしは揺らがないという安心感があります。けれど、短期取引の仕組みに当てはめたとき、その安心がどこまで通用するのかは別の話かもしれません。私たちも一度、紙の上で確かめてみました。

差し入れたお金は、いくらの取引に変わる?

月末の棚卸しのあと、仮の数字を置いて夫婦で計算してみました。信用取引は、証券会社に委託保証金を差し入れ、買付代金や株を借りて売買し、期限内に返済する取引です(日本証券業協会の用語集)。その保証金率は法令で30%以上と定められていると、SMBC日興証券の解説にあります。

FXはさらに幅が広くなります。金融庁のページでは、個人の取引は通貨ペアを問わず取引金額の4%以上の証拠金が必要で、レバレッジ25倍に相当するとされています。

差し入れる額と、取引できる額の上限
取引 差し入れる額 取引できる額の上限
信用取引(保証金率30%) 30万円 1,000,000
FX(証拠金率4%) 10万円 2,500,000

「余剰資金なら大丈夫」は、どこで崩れた?

私たちがつまずいたのは、失ってもよいと考えた額と、値動きにさらされる額が一致しない点でした。FXで上限まで取引すると、相場が4%不利に動いただけで損失は100,000となり、差し入れた証拠金と同じ額になります。5%なら125,000で、計算上は差し入れた額を超えます。金融庁も、証拠金の額を上回る損失が生じることがあり、元本や利益は保証されないと明記しています。

信用取引でも、相場が不利に動いて保証金の維持率が足りなくなると追加保証金(追証)を求められます。期日までに解消できなければ、建玉の決済を求められる場合があります。「余った分だけ」のつもりが、追加の入金を迫られる形になりうるのです。

もう一つ思い出したのは、2020年3月のことです。相場が大きく下がり、私たちは積立を止めかけて夫婦で言い合いになりました。月に一度しか残高を見ない積立でさえ、気持ちは揺れます。日々の値動きの中で判断を迫られる取引なら、どうだったでしょうか。

短期取引の前に、何を分けて考える?

日本証券業協会のページでは、投資は余裕資金で行い、まとまった資金を一つの商品に投じず分散することが呼びかけられています。私たちはここから、次の三つを別々の数字として書くようにしました。

  • 失っても暮らしが揺らがない額はいくらか
  • その取引で値動きにさらされる総額はいくらか
  • 損失が差し入れた額を超えたとき、どこから補うのか

一方で、使う時期の遠い老後のためのお金について、金融庁のNISA特設サイトでは、長期投資は複利の効果が大きくなり、積立は高値づかみを避けやすく、分散は価格変動を抑える効果が期待できると説明されています。私たちが老後資金を積立に置いているのは、この性質が遠い先のお金に合っていると考えたからです。仕組みの違いは積立投資と短期取引の違いを整理した記事でもまとめています。短期取引を選ぶかどうかは、あなたの暮らしとお金の使いみちによって変わります。

次にお金の話をする日には、「余剰資金」と呼んでいる額を紙に書き、その隣に、取引で動かすことになる総額を並べてみてはいかがでしょうか。二つの数字の開きが、考え始める手がかりになるはずです。