誕生月になると、今年も「ねんきん定期便」が届きました。誕生日の夕食を終えた食卓で封を開けるのが、いつの間にか私たちの小さな恒例になっています。今年は見込額の欄を眺めながら、妻がぽつりと言いました。「これだけで、老後の暮らしは成り立つのかな」。その問いに答えるつもりで、年金だけで暮らした場合に足りない金額を、公表されている平均の数字で計算してみました。

年金だけの暮らしは、月にいくら足りない?

まず確かめたのは、年金の形です。厚生労働省の年金制度の仕組みでは、公的年金は全国民共通の国民年金を1階、会社員や公務員が加入する厚生年金を2階とする2階建てです。どちらに加入してきたかで、受け取る額の土台が変わります。

次に年金額です。厚生労働省の令和7年度の年金額改定では、名目手取り賃金変動率2.3%からマクロ経済スライドの調整0.4%を差し引き、1.9%の引き上げとなりました。これを生活費の目安と並べたのが下の表です。

年金額と老後の生活費の目安(令和7年度時点・いずれも月額・夫婦2人)
項目 月額
厚生年金モデル世帯の年金額(令和7年度) 232,784円
高齢夫婦無職世帯の可処分所得(家計調査2025年平均) 約22.2万円
高齢夫婦無職世帯の消費支出(同上) 約26.4万円
最低日常生活費(生活保障に関する調査2025年度) 23.9万円
ゆとりある老後生活費(同上) 39.1万円

出典:社会保険労務士法人エフピオ、生命保険文化センター「老後の生活費はどれくらい?」、同「老後の生活費はいくらくらい必要と考える?」

年金額は毎年4月に見直されるしくみです。ここに並べたのは令和7年度時点で公表されている数字で、年度が変わると金額も変わります。最新の見込額は、ねんきん定期便やねんきんネットで確かめられます。

実際の暮らしぶりに近い家計調査では、可処分所得と消費支出の差が月約42,000円です。1年にすると504,000円、これが25年続くと仮に置くと12,600,000円になりました。一方、モデル世帯の年金額とゆとりある老後生活費の差は月158,216円で、同じ「足りない金額」でも大きさがまるで違います。

私たちは、どこで計算をまちがえかけた?

年金額と手取りを、同じ物差しで比べていた

最初、私たちはモデル世帯の年金額から最低日常生活費を引き、「月6,216円ほどの差なら何とかなる」と受け止めかけました。けれど家計調査の可処分所得は、税や社会保険料を差し引いたあとの金額です。年金額として示される数字と手取りの数字は、並べる段が違います。表の列を見直していた夫が、経理の仕事で身についた目で気づいてくれました。

定期便の見込額を、そのまま老後の受取額だと思った

私たちはまだ40代なので、定期便に載っているのはこれまでの加入実績に応じた見込額です。50歳以上になると老齢年金の見込額が記載されるため、今の数字は途中経過として読む必要がありました。日本年金機構の案内にあるとおり、ねんきんネットや、定期便のQRコードから開ける公的年金シミュレーターでは、条件を設定して試算できます。確かめ方はねんきん定期便から見込み額を確認する手順にまとめています。

「2000万円」を、自分たちの答えにしかけた

よく聞く老後2000万円は、2019年6月3日に公表された金融審議会市場ワーキング・グループの報告書をもとに、2017年の家計調査で月約5.5万円だった赤字を30年分積み上げた数字です。使う調査を替えると約1200万円になるという指摘もあり、前提次第で結果は動きます。私たちの12,600,000円も、平均から出した一つの例にすぎません。

足りない金額は、どの順番で確かめると落ち着く?

つまずきを経て、私たちは次の順に数字を決めるようにしました。

  1. 年金の見込額を書き出す:定期便やねんきんネットで自分たちの数字を出し、税や保険料を引く前か後かを横に書き添えます。
  2. 月の生活費を一つ選ぶ:実際の支出に近い数字か、最低限か、ゆとりを含むかを決め、比べる相手を一つに絞ります。
  3. 年数を置いて掛け算する:月の不足額に12を掛けて年額にし、さらに年数を掛けて総額を出します。

年数の目安には平均余命を使っています。厚生労働省が2025年7月25日に公表した簡易生命表では、65歳時点の平均余命は男性19.47年、女性24.38年です。私たちは長いほうを切り上げて25年としましたが、30年で計算すると月約4.2万円の不足でも15,120,000円になります。

生活費の物差しを変えると、差はさらに広がります。ある運用会社のコラムでは、ゆとりある老後生活費を基準に約4,000万円不足するという試算例が示されていました。どの数字を選ぶかは、望む暮らし方によって変わります。月の不足額と年数の掛け算をもう少し丁寧に追いたいときは、「月の不足額×年数」で見る老後資金の試算も手がかりになるかもしれません。私たちの数字を、あなたの家にそのまま当てはめる必要はありません。

定期便を引き出しにしまいながら、夫が言いました。「来年の誕生月は、手取りの列から先に書こうか」。