年が明けて最初の週末、お雑煮の器を片づけた食卓に、夫婦で一枚の紙を広げます。毎年1月に、老後資金の目標額を見直すのが私たちの習慣です。月末の棚卸しとは違い、この日は少し先の年数まで数字を伸ばして考えます。
その見直しの席で、「お金をかけずに、どこまで不足額を出せるだろう」という話になりました。公的な無料ツールと電卓だけで試してみたのです。ここでは、そのときの試算と、途中でつまずいた点、あとから整理した考え方を順にお伝えします。
平均の不足額を当てはめると、何年分でいくらになる?
最初に置いたのは、統計の数字でした。生命保険文化センターのページでは、総務省「家計調査」2025年平均をもとに、高齢夫婦無職世帯(夫婦とも65歳以上)の可処分所得が月約22.2万円、消費支出が月約26.4万円で、月あたり約4.2万円の不足が生じていると紹介されています。
この月額を12倍すると、年額で約50.4万円です。私たちは、取り崩す期間を25年と30年の2通りに置いて、掛け算をしてみました。
| 取り崩す期間 | 不足額(年額) | 不足額(合計) |
|---|---|---|
| 25年 | 約50.4万円 | 約1,260万円 |
| 30年 | 約50.4万円 | 約1,512万円 |
比べたのは、いわゆる「老後2000万円」の数字です。金融庁が2019年6月3日に公表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」では、2017年の家計調査にもとづく月約5.5万円の赤字を、95歳までの約30年間で取り崩すと合計約2000万円になると試算されていました(報告書の解説記事)。月約5.5万円と月約4.2万円で30年分を計算し直すと、約468万円の開きになります。月の差は小さく見えても、年数を掛けると大きく動くことがわかりました。
その合計を、私たちの不足額と呼んでよかった?
表ができたところで、夫が「これは誰の家計の数字だろう」とつぶやきました。そこから、私たちは何度か手を止めることになります。
平均は、ほかの世帯の実際の家計
家計調査の数字は、実際に暮らしている世帯の平均です。私たちの老後の生活費でも、私たちの年金額でもありません。表の合計をそのまま目標額の欄に書き写しかけて、ペンを置きました。
月額と年額が、紙の上で混ざる
私たちのメモでは、生活費を月額で、目標額を総額で書いていました。途中の数字に「月」「年」を書き添えないと、12倍の違いを見落としそうになります。以来、どの数字にも単位を必ず書くのではなく、書き忘れたら見直す、という小さな決まりにしています。
標準的な年金額は、前提つきのモデル
日本年金機構のお知らせによると、2025年度4月分からの標準的な年金額は夫婦2人分で月額232,784円で、前年度の228,372円から4,412円増えています。ただしこれは、平均標準報酬45.5万円で40年間働いた夫婦というモデルで、老齢厚生年金と夫婦2人分の老齢基礎年金満額を合わせた額です。妻が今パートで働く私たちには、そのまま当てはめられる数字ではないと気づきました。
自分たちの年金見込額は、無料で確かめられる?
そこで、平均ではなく自分たちの年金を見ることにしました。厚生労働省の「公的年金シミュレーター」は2022年4月25日に試験運用が始まったツールで、パソコンやスマートフォンから将来の年金見込額を試算できます。厚生労働省のよくあるご質問では、利用は無料で、ID・パスワードの登録も不要と説明されています。
私たちは夫婦それぞれで試算し、結果を月額にそろえて、メモの同じ列に並べました。見込額の数字の読み方で迷ったときのことは、ねんきんネットのかんたん試算を読み違えかけた記録にまとめています。
見込額を眺めるときの物差しとして、制度の基準額も書き添えました。厚生労働省は2025年1月24日の報道発表で、2025年度の年金額を前年度から1.9%引き上げると公表し、老齢基礎年金の満額は1人分月額69,308円(昭和31年4月1日以前生まれは69,108円)となりました。ここまでに挙げた標準的な年金額や老齢基礎年金の満額は、いずれも令和7年度(2025年度)時点のものです。年金額は毎年4月に見直されるため、私たちはメモに書き込む前に、日本年金機構や厚生労働省のページで最新の金額を確かめるようにしています。
退職金や生活費まで含めた家計全体の流れを見たいときは、金融庁のNISA特設ウェブサイトにあるライフプラン・シミュレーションも手がかりになります。収入・支出・退職金・年金などを入れると、将来の家計収支の推移をグラフで確認できます。
不足額は、どの順番で出すと迷わない?
つまずいた点を踏まえて、私たちは次の順番に落ち着きました。公的年金シミュレーターと紙、電卓があれば進められる作業です。
- 今の家計簿を開き、老後も続きそうな支出に印をつけて、月額の生活費を見積もる
- 公的年金シミュレーターで夫婦それぞれの見込額を試算し、月額にそろえて合計する
- 月の生活費から月の年金見込額を引き、月の不足額を出す
- 月の不足額を12倍して年額にし、取り崩す年数を掛けて合計にする
- 年数を25年と30年のように2通り置き、合計の差を並べて書く
統計の約4.2万円は、自分たちの数字を出したあとに「平均と比べてどうか」を見るために使っています。この平均は、税や社会保険料を差し引いたあとの可処分所得から出された数字です。自分たちの計算でも、手取りで考えているのか額面で考えているのかを、メモの横に書くようにしました。
出てきた不足額で、手元の資金が何年もつかを見たくなったときは、無料計算機で退職金が何年もつかを見た試算も読み比べてみてください。どの合計も私たちにとっての目安であり、生活費や働き方が違えば、あなたの家の結果は大きく変わります。
次の年始までに、紙に何を一つ残しておく?
数字が一度に揃わなくても、かまわないと私たちは考えています。今週のどこかで家計簿を開き、老後も続きそうな支出を一つだけ選んで、その金額に「月額」と書き添えてみる。そんな一行から始めるのも、一つの方法です。
その一行は、次の見直しで年金の見込額と並べる、最初の数字になります。小さな数字を、少しずつ積み重ねていきましょう。