退職金を受け取った日から数えて、そのお金はあなたの暮らしを何年支えてくれるでしょうか。金額そのものより、この「何年」のほうが、老後を思い描くときには手触りのある物差しになるのかもしれません。

私たちも夫婦でこの問いを立て、退職金・月の不足額・年数という3つの要素で試算してみました。式は単純なのに、途中で何度か手が止まりました。この記事では、私たちの試算と、つまずいた点、そこから整理した考え方を順にお伝えします。

平均の数字で割ると、退職金は何年もつ?

最初は自分たちの数字ではなく、公的な調査の平均値を置いてみました。厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」(2023年10月末公表)では、大学卒・勤続35年以上の定年退職者の平均退職給付額は2,037万円です。

不足額のほうは、総務省「家計調査」2025年平均を使いました。生命保険文化センターのページでは、65歳以上の夫婦のみの無職世帯で、可処分所得が月額約22.2万円、消費支出が月額約26.4万円、差し引き月額約4.2万円が不足すると整理されています。

式は「退職金 ÷ 年間の不足額」です。月額約4.2万円を12倍した年額504,000で2,037万円を割ると、約40.4。思っていたより長い数字に、夫婦で顔を見合わせました。

最初に出た数字は、なぜ「年」ではなかった?

実は、この答えにたどり着く前に一度つまずいています。電卓で2,037万円を4.2万円で割ったところ、500近い数字が出て、妻が「これ、何の単位?」と首をかしげました。

割ったのは月額でしたから、答えは年ではなく約485でした。12で割り直して、ようやく年数になります。生活費や年金は月額で、退職金はまとまった一時金で語られることが多いため、単位をそろえないまま計算してしまいやすいのです。今の私たちは、式の横に「月」「年」と書き添えるようにしています。

年金の欄には、誰の分の数字を入れる?

次に迷ったのは、不足額の元になる年金の数字でした。厚生労働省「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」を引いた記事によれば、老齢厚生年金(老齢基礎年金を含む)の平均年金月額は男性16万9967円、女性11万1413円で、差は月5万8554円あります。

これは1人分の年金の差ですが、それだけで世帯の月の不足額約4.2万円を上回ります。年額にすると702,648です。夫婦それぞれの働き方や加入の歴史によって、世帯に入る年金は平均から離れることがある。平均の不足額をそのまま自分たちに当てはめるのはまだ早い、と感じた場面でした。

退職金の数字は、いつの、どんな人の数字?

退職金の平均にも前提があります。2,037万円は「大学卒・勤続35年以上・定年退職」という条件つきで、前回調査の2,173万円からは減っています。退職給付の項目はおおむね5年ごとに調べられるため、2026年の今も参照できる公的な最新値は2023年公表のものです。

前回の2,173万円で同じ式を計算すると約43.1。2つの調査の差だけで、約2.7分の違いが生まれます。勤め先や勤続年数が異なれば、自分の見込みとの開きはこれより大きいかもしれません。

不足額が変わると、何年分が動く?

つまずきを重ねるうちに、私たちは「年数を左右しているのは、退職金の額より毎月の不足額のほうではないか」と考えるようになりました。ここからは仮の数字で、退職金を2,037万円のまま、月の不足額だけを動かしてみます。

退職金2,037万円を年間の不足額で割った年数
月の不足額 年間の不足額 退職金がもつ年数
約4.2万円(家計調査の平均) 504,000 約40.4
8万円 960,000 約21.2
12万円 1,440,000 約14.1

月の不足額が約3倍になると、年数はおよそ3分の1になります。この式には、家の修繕のようなまとまった出費や、退職金にかかる税金、運用による増減は入っていません。粗い物差しだと承知したうえで、条件を変えたときの動き方を見るために使っています。

私たちは、3つの要素をどの順で確かめる?

試算を終えて、私たちは確かめる順番を次のように決めました。

  1. 退職金:勤め先の規程で見込み額を調べ、税金を差し引いて手元に残る額を書く
  2. 月の不足額:夫婦それぞれの年金見込み額を足し、月の生活費から引く。ここで12を掛けて年額に直す
  3. 年数:退職金を年間の不足額で割り、不足額を少し増やした場合も横に並べる

手元に残る退職金の見込み方は、控除額と1/2の式で退職金の受取額を試算する記事に、年金の見込み額はねんきん定期便から見込み額を確認する手順にまとめています。

平均値は、自分たちの数字が決まるまでの仮置きにすぎません。毎年1月に老後資金の目標額を見直すとき、私たちはこの3つの欄も一緒に書き換えています。

表を眺めていた妻が、ぽつりと言いました。「退職金がいくらかより、毎月いくら足りないかを先に知りたいね」。