私たちは毎年1月に、老後資金の目標額を見直しています。年始の慌ただしさが落ち着いたころ、食卓にノートを開いて、去年書いた数字に線を引いていく時間です。ある年のその席で、夫が「退職金と年金だけで、老後は暮らせるのかな」と口にしました。積立の額を話し合う前に、まずこの問いに平均の数字を当ててみることにしました。

平均の数字を当てはめると、退職金は何年もつ?

最初に置いたのは、暮らしの側の数字です。総務省「家計調査」の2025年平均では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯で、可処分所得が月約22.2万円、消費支出が月約26.4万円でした。差し引きで、毎月約4.2万円が足りていません(生命保険文化センターの解説)。年額にすると約50.4です。

次に退職金です。厚生労働省「就労条件総合調査」では、大卒・勤続35年以上の定年退職者1人あたりの平均退職給付額が、令和5年調査で2,037万円でした(就労条件総合調査を読み解いた記事)。この金額を不足分にそのまま充てたらどうなるか。平均値だけを並べた、私たちの仮の計算です。

平均の数字で見た退職金の持ち時間
項目 数字
毎月の不足額 約4.2万円
1年あたりの不足額 約50.4
退職金2,037万円で不足を埋められる年数 約40.4

約40.4という数字を見て、夫婦でいったん肩の力が抜けました。けれど、ここから読み違えが始まっていました。

私たちがつまずいたのは、どの数字の読み方?

一つ目は、老後の年数の置き方です。はじめは平均寿命を目安にしていました。厚生労働省「令和6年簡易生命表」の平均寿命は男性81.09年、女性87.13年です(令和6年簡易生命表の概要)。男性の81.09年から65を引いた約16で不足を積み上げていたのです。

ただ、65歳を迎えた人のその後を考えるなら、平均余命のほうが近い物差しです。同じ生命表(令和7年7月25日公表)では、65歳の平均余命は男性19.47年、女性24.38年とされています(高齢者住宅協会の記事)。月約4.2万円の不足を積み上げると、合計は次のように変わりました。

年数の物差しを変えたときの不足の合計
年数の置き方 不足の合計
平均寿命から65を引いた年数(男性) 約811
65歳の平均余命(男性19.47年) 約981
65歳の平均余命(女性24.38年) 約1,229

月の不足額は同じでも、年数の物差しを替えるだけで合計の見え方は大きく変わります。平均余命もあくまで平均なので、夫婦のどちらかがその先まで暮らす場合も含めて考えておきたい、と二人で話しました。

二つ目は、平均値をわが家の数字だと思い込みかけたことです。退職金の2,037万円は、大卒・勤続35年以上で定年退職した人の平均です。前回の平成30年調査の2,173万円からは下がっています。年金の平均月額も、厚生労働省年金局の「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金(基礎年金含む)が150,289円、国民年金が59,310円(いずれも男女計)です(年金額の概況をまとめた記事)。加入してきた制度によって、これだけの開きがあります。融資の仕事で平均と個別の違いを見てきたはずの夫も、自分の家計になると平均に寄りかかっていました。

足りるかどうかは、何から順に確かめる?

試算とつまずきを振り返って、私たちはこの問いを三つに分けて確かめることにしました。

  1. 年金の見込額を、平均ではなく自分たちの加入記録で確かめる
  2. 退職金の予定額を、勤務先の制度に沿って確かめる
  3. 今の家計の支出を、老後の暮らし方に合わせて月額で置き直す

三つの数字がそろったら、金融庁のライフプランシミュレーターに入力します。金融庁のページでは、年収や退職金の予定額、公的年金の見込額、生活費などを入れると、将来の貯蓄残高の推移をグラフで確認できます。年金の見込額の調べ方はねんきんネットで見込額と暮らしの差を並べた記事に、退職金の手取りの考え方は控除額と1/2の式で退職金を試算した記事にまとめています。

平均だけで見ると、退職金は不足分を長く埋めてくれそうに見えます。けれど、年数の物差しや自分たちの年金額が変われば、答えは足りる側にも足りない側にも振れます。暮らせるかどうかの線は、それぞれの家計の数字の中にあります。私たちはそう受け止めています。

その年のノートを閉じる前、妻が平均の表を指でなぞりながら言いました。「平均で何年もつか、じゃなくて、うちで何年もつか、だね」