月末の夜、食卓に通帳と証券口座の画面を並べて、夫婦で残高を書き写す。私たちが7年続けている「棚卸し」です。その席で、「結局、老後資金はいくらあれば足りるのだろう」という話になりました。一つの数字に決めようとすると、話はなかなかまとまりません。そこで、生活費の物差しを3つに分けて並べてみました。

老後資金は、何を物差しに測ればいい?

老後資金に全国一律の正解額はありません。土台は「老後の生活費−老後の収入」で毎月の不足額を出し、不足が続く年数を掛ける考え方です。そこに住宅修繕や医療・介護などの一時支出、今ある金融資産を加減します。

年数は、厚生労働省の2025年簡易生命表で65歳の平均余命が男性19.68年、女性24.38年だったことを踏まえ、20年前後を基本に、30年を長めのケースとして置いてみます。違いが出るのは生活費の見積もり方で、選択肢は3つあります。

実際の暮らしぶりで見ると、いくら足りない?

1つ目は、今の高齢世帯が実際に使っている金額から考える方法です。総務省統計局の家計調査(2025年平均)では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯は可処分所得が月22万1,544円、消費支出が月26万3,979円で、毎月4万2,434円の不足でした。単身無職世帯は可処分所得が月11万8,465円、消費支出が月14万8,445円で、不足は月2万9,980円です。

毎月の不足が続いた場合の合計(2025年平均からの単純計算)
世帯 20年間 30年間
夫婦のみ 約1,018 約1,528
単身 約720 約1,079

平均値をそのまま延ばした数字で、物価や年金額の改定、税・社会保険料、住居費の違いは織り込んでいません。

ゆとりを望むなら、差はどこまで広がる?

2つ目は、望む暮らしから考える方法です。生命保険文化センターの2025年度調査では、夫婦2人の最低日常生活費は月23.9万円、ゆとりある老後生活費は月39.1万円でした。実際の支出ではなく、回答者が考える目安です。

収入側には、厚生労働省が公表した2026年度の年金額のうち、夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な厚生年金額、月23万7,279円を置きます。標準的なモデルであり、個人の受給額ではありません。

最低日常生活費との差は月1,721ほどですが、ゆとりある生活費との差は月153,721、20年間で約3,689に広がります。

自分たちの数字に置き換えたら、どう変わる?

3つ目は、自分の世帯の数字で計算する方法です。まず預貯金・投資資産・退職金の見込み・負債を書き出します。次に日本年金機構のねんきんネットで、本人と配偶者の年金見込額を確かめます。「詳細な条件で試算」では、今後の職業や受給開始年齢を変えて試算できます。最後に、生活費と受給開始年齢を複数の条件で計算します。

庭に面した縁側で並んでお茶を飲む老夫婦の後ろ姿の演出イメージ

毎月の準備額は、目標の不足額から今の資産と退職金などの見込みを差し引き、退職までの月数で割って出します。仮の数字ですが、不足額1,000万円、資産と退職金の見込みが計400万円、退職まで20年なら月25,000です。運用益を見込むなら利回りを一つに決めず、元本割れも含めて複数のケースで確かめます。毎月の積立額と期間から将来の金額を試算する方法も、ケースを並べるときの手がかりになります。

金融庁のNISA特設ウェブサイトでは、NISAは運用益が非課税になる制度と説明されていますが、元本まで保証する制度ではありません。私たちは、使う時期が近いお金とは分けて考えています。

私たちは、3つの物差しをどう使っている?

私たちは、どれか一つに決めていません。家計調査の数字は実際の平均的な暮らしの目安として、ゆとりの数字は望む暮らしを足したときの目安として眺め、そのあいだにねんきんネットで確かめた自分たちの見込みを置いています。

2020年3月、積立を止めかけて夫婦で言い合いになったことがあります。目標を一つの数字で握っていると、気持ちも一緒に揺れやすい。そう感じてから、毎年1月の見直しでは幅で話すようにしました。

これは私たちの家計に合わせた使い方で、どの物差しを軸にするかは、あなたの暮らし方や働き方によって変わります。

次の月末も、食卓に数字を並べながら話すことになりそうです。答えを急がず、あなたの数字も少しずつ確かめながら、また考えましょう。