年が明けて鏡餅を下げるころ、私たちは食卓に1年分のメモを広げ、老後資金の目標額を見直します。毎年1月の決まりごとです。今年はその席で、「退職金を受け取ったあと、そのお金は何年もつのだろう」という話になりました。受け取る額がわかっても、使いながら運用する年月の長さは見えてきません。そこで、複利の式を使って資金寿命を1年ずつ追ってみました。
ここに出てくる勤続年数や退職金の額、利回りは、私たちが説明のために置いた仮の数字です。あなたの暮らしにそのまま当てはめるものではないので、計算の道筋だけを持ち帰っていただけたらと思います。
退職金2,000万円を取り崩したら、何年もつ?
まず、受け取る時点の税の土台を確かめました。国税庁のページでは、退職所得の金額は「(収入金額−退職所得控除額)×1/2」で計算するとされています。退職所得控除額は、勤続20年以下なら「40万円×勤続年数」(80万円未満なら80万円)、20年超なら「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」です。勤続年数に1年未満の端数があれば、1年に切り上げます。
仮に勤続30年で一時金2,000万円を受け取るとすると、退職所得控除額は1,500万円、退職所得は250万円になります。この額をもとに税が計算されますが、ここから先の資金寿命の試算は、税を差し引く前の2,000万円のままで進めました。
次に、運用による伸び方です。全国銀行協会の説明では、1年複利の元利合計は「元金×(1+年利率÷100)の年数乗」で表され、期間が長いほど単利との差が広がるとされています。取り崩しながらの場合はこの掛け算を1年ずつ区切り、「(前の年の残高−その年に引き出す額)×1.02」を繰り返しました。毎年初めに年120万円、月にならすと10万円を引き出し、残りを年2%で運用する前提です。
| 条件 | 10年分を引き出した後 | 尽きるころ |
|---|---|---|
| 運用しない(0%) | 約800万円 | 16年分を引き出した後に約80万円。17年目の120万円に届かない |
| 年2%で運用 | 約1,098万円 | 19年分を引き出した後に約118万円。20年目の120万円にわずかに届かない |
同じ2,000万円でも、残りを運用し続ける前提を置くと、もつ年数は3年ほど延びる計算になりました。
私たちの試算は、どこでつまずいた?
表を作ってから見直すと、前提の置き方に3つの甘さがありました。
受け取る前の額を、そのまま元金にしていた
表の2,000万円は税引き前の額で、口座に入る手取りは税を差し引いた後の金額です。退職金の一部を年金形式で受け取る場合は、扱いも変わります。国税庁の公的年金等の課税関係のページでは、年金形式の部分は雑所得となり、年間の受取額から公的年金等控除額を差し引いて計算し、支払いの際には概ね5.105%(復興特別所得税分を含む)が源泉徴収されると説明されています。受け取り方による違いは、退職金を一時金で受け取るか分割で受け取るかを税制で比べた記事で整理しています。
積み立て用の画面で、取り崩しを試そうとしていた
最初は金融庁のつみたてシミュレーターに数字を入れかけました。毎月の積立額・想定利回り(年率)・積立期間から将来の運用資産額を試算する道具で、積み立てていく時期の計算のためのものです。引き出していく時期を追うには、入力欄が合いませんでした。取り崩しの段階を試算できるツールには、三菱UFJアセットマネジメントの取り崩しシミュレーションがあります。取り崩し開始年齢・金融資産額・毎月の取り崩し額・想定リターンと想定リスク(いずれも年率)を入れると、何年間取り崩しを続けられるかを試算できます。
毎年ぴったり2%ずつ増える前提にしていた
表の計算は、どの年も同じ割合で増える前提です。けれども私たちは、2020年3月に積立を止めかけて夫婦で言い合いになったとき、値動きが一定ではないことを身をもって知りました。先ほどの取り崩しシミュレーションは、想定リスクを含めてモンテカルロ法で5,000通りの結果を試算する仕組みで、平らな1本の線とは違う見え方をします。
資金寿命の数字は、何を映している?
つまずきを経て、私たちは資金寿命の数字を「答え」ではなく「前提を並べた結果」として見ることにしました。整理した考え方は次の3つです。
- 元金は手取りに近い額で置く。税引き前と手取りを混ぜないよう、表の上にどちらの額かを書き添えます。
- 利回り0%の行を横に並べる。運用の伸びがない場合との差を見ると、複利に支えられている年数がわかります。
- 引き出す額は月額と年額を分けて書く。月10万円は年120万円です。月の数字だけで考えていると、1年ずつの計算で取り違えやすくなりました。
金融庁の資産形成の基本のページでは、長い期間投資を続けると複利の効果が大きくなると説明されています。取り崩しの時期でも、表の2つの行の差は年を追うごとに開いていきました。複利そのものの増え方は、毎月1万円を年率3%・5%で20年、30年続けた複利シミュレーションで詳しく見ています。
次の年始までに、手元に何を用意する?
資金寿命の計算は、元になる数字が一つ変わるだけで結果が動きます。小さな一歩としては、今の勤続年数を確かめ、1年未満の端数を切り上げた年数で退職所得控除額を一度手で計算してみるのはどうでしょう。その数字をメモの端に書いておけば、次の1月に資金寿命の表へ置く元金を考えるときの足場になります。一つずつ、積み上げていきましょう。