お正月の飾りを片付け終えた1月の週末、私たちは毎年、老後資金の目標額を見直しています。食卓にお茶を置いて向かい合うと、今年も同じ問いから話が始まりました。「このままのペースで積み立てを続けたら、老後のお金は足りるのだろうか」。

答えを一つの数字で出そうとすると、夫婦の話はすぐに散らばってしまいます。そこで私たちは、電卓があれば5分ほどで終わる試算に絞ることにしました。ここでは、その試算の中身と、途中でつまずいた点、そこから整理した考え方を順にお伝えします。

老後に、毎月いくら足りなくなりそう?

最初に置いたのは、実際の暮らしぶりの数字です。アクサ生命のページでは、総務省「家計調査」の2024年平均をもとに、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の消費支出がおよそ25.7万円、手取り収入がおよそ22.3万円で、月の不足額はおよそ3.4万円と紹介されています。

次に考えたのは、その不足が何年続くかです。厚生労働省が2025年7月25日に公表した簡易生命表では、65歳の平均余命は男性19.47年、女性24.38年とされています(高齢者住宅ジャーナルの記事より)。私たちは、切りのよい20年と25年の2通りで計算することにしました。

計算の手順は、次の4つだけです。

  1. 月の不足額に12を掛けて、1年分の不足額を出す
  2. 1年分の不足額に、20年と25年をそれぞれ掛ける
  3. 今の貯蓄額に「毎月の積立額×12×65歳までの年数」を足す
  4. 3で出した金額から、2で出した金額を引く

今のペースを続けたら、65歳でいくら手元にある?

ここからは説明のために、私たちが置いた仮の数字で進めます。今の貯蓄を200万円、毎月の積立を3万円、65歳までの年数を20年とします。運用で増える分は入れず、積み立てた元本だけで見ています。

月3.4万円の不足と、今のペースで貯まる額(元本のみ・仮の数字)
項目 計算 金額
不足額(20年分) 3.4万円×12か月×20年 約816万円
不足額(25年分) 3.4万円×12か月×25年 約1,020万円
65歳時点の貯蓄見込み 200万円+3万円×12か月×20年 約920万円

20年で見ると、貯蓄見込みが不足額を約104万円上回ります。ところが25年で見ると、今度は約100万円足りません。同じ家計でも、年数の置き方ひとつで「足りる」と「足りない」が入れ替わりました。この結果を前にして、私たちはしばらく黙って表を眺めていました。

私たちは、どこでつまずいた?

年金の額面と、暮らしの支出をそのまま並べた

試算の最初の段階で、私たちは年金の数字と生活費を直接比べていました。日本年金機構のページでは、令和6年度の標準的な年金額(夫婦2人分の老齢基礎年金と老齢厚生年金)は月230,483円とされています。消費支出の約25.7万円と並べると、差はそれほど大きくないように見えます。

けれども暮らしの中では、税や社会保険料も出ていきます。三井住友信託銀行のページでは、同じ世帯の2024年平均で、税や社会保険料などの非消費支出が月30,356円、消費支出と合わせた支出は月286,877円と紹介されています。年金の額面230,483円とこの合計286,877円を比べると、差は約5.6万円まで広がります。ただし、この記事で不足額として使ったのは、この5.6万円ではありません。先ほどの約3.4万円は、実際に家計へ入る手取りの収入と消費支出を比べて出した数字です。どちらも「足りない額」ですが、何と何を比べるかで数字が変わる点に、私たちは戸惑いました。

「今のペース」が続く前提を疑っていなかった

もう一つは、毎月の積立額が20年間変わらないと思い込んでいたことです。2020年3月、私たちは積立を止めかけて、夫婦で言い合いになりました。もしあのとき止めていたら、表の3行目はまったく別の数字になっていたはずです。「今のペース」という言葉には、「そのペースを保てたら」という条件が隠れていました。

数字が揺れるとき、試算をどう受け止める?

つまずきを並べてみて、私たちは試算の役割を少し変えて考えるようになりました。一つの答えを出す道具というより、「どの条件になると足りなくなるのか」を見つける道具として使う考え方です。そのうえで、私たち夫婦は次の3つを決めました。

  • 年数は1通りにせず、短めと長めの2通りで出す
  • 支出と比べる収入は、手取りか額面かをそろえる
  • 積立額は、今の額と少し下げた額の両方で計算する

平均の約3.4万円は、あくまで出発点です。あなたの家計の支出や年金の見込み額に置き換えると、数字は変わっていきます。年金の見込み額は、ねんきん定期便から見込み額を確認する手順で整理しています。運用で増える分も含めて見たいときは、毎月の積立を年率3%・5%で続けた複利の試算が手がかりになるかもしれません。

5分で始められる、最初の一つは?

すべての数字をそろえてから始めようとすると、試算はなかなか前に進みません。私たちも、最初の年は表の1行目を埋めるだけで精一杯でした。

まずは、今の貯蓄額と毎月の積立額の2つだけを紙に書き出し、「積立額×12×65歳までの年数」を貯蓄額に足してみてはいかがでしょうか。電卓に残ったその一つの数字が、足りるかどうかを考えるための最初の土台になります。