年が明けると、私たちは毎年1月に老後資金の目標額を見直します。お正月の片付けが済んだ午後、食卓に去年の数字を広げるのが、わが家の年始の小さな行事です。ある年の見直しで、夫が「もしまとまったお金が手元にあったら、新NISAに一度に入れる?それとも毎月に分ける?」と口にしました。すぐには答えが出ず、その日の話は試算に移っていきました。
ここでは、私たちがそのとき置いた数字、途中でつまずいた点、二人で整理した考え方を順にたどります。どちらが正解かを決めるためではなく、あなたが自分の条件で考えるための材料として読んでいただけたらと思います。
手元の資金を、どのくらいの速さで市場に置く?
まず制度の枠を確かめました。金融庁のNISA特設ウェブサイトでは、つみたて投資枠は年120万円、成長投資枠は年240万円で、併用すると年間360万円まで投資できます。非課税保有限度額は1800万円(うち成長投資枠1200万円)、非課税で保有できる期間は無期限です。2024年1月に恒久的な制度として始まりました。
そのうえで、手元に240万円があると仮定して、二つの入れ方を並べました。仮の数字を使うのは、この一つの例だけにしておきます。
| 入れ方 | 使う枠 | 購入の形 |
|---|---|---|
| 一括投資 | 成長投資枠 | 1回で240万円 |
| 毎月積立 | つみたて投資枠 | 24か月に分けて月100,000円(年1,200,000円) |
24か月に分けると、年間の積立額がちょうどつみたて投資枠の上限に並びます。つみたて投資枠は購入方法が積立に限られているため、一度に入れる場合は成長投資枠を使うことになります。
入れた直後に下がったら、私たちは続けられる?
数字を並べてすぐ、妻が「入れた翌月に大きく下がったら、落ち着いていられるかな」と言いました。私たちには苦い記憶があります。2020年3月、相場が大きく揺れた時期に積立を止めかけ、夫婦で言い合いになりました。毎月少しずつ積み立てていた額でさえ、心は揺れたのです。
積立には、その揺れをやわらげる仕組みがあります。日本証券業協会のNISA解説ページでは、定時・定額で買う積立はドルコスト平均法によって、価格が安いときに多く、高いときに少なく買うことになり、平均購入単価がならされると説明されています。つみたて投資枠を使えば、制度の設計そのものが「長期・積立・分散」の形になるとも書かれています。
数字の上では、一度に入れるほうが有利なの?
ところが調べ進めると、別の数字に出会いました。Vanguard Researchが2023年2月に発表した一括投資と積立投資の比較分析では、米国(1979〜2022年)・英国(1986〜2022年)・グローバル(1976〜2022年)と市場ごとに異なる期間のデータで1年間の投資期間を比べると、一括投資が積立投資を上回った確率は61.6〜73.7%でした。株式100%のポートフォリオでは、リターンの中央値で一括投資が2.2%上回っています。
その理由として挙げられていたのは、お金を市場に入れるのを遅らせることによる機会費用です。市場の外で待っている間に得られたはずのリスクプレミアムを取り逃がす、という考え方でした。私たちは漠然と「複利が早く効くから」だと受け止めていたので、ここで一度立ち止まりました。
中央値の差2.2%を240万円にそのまま当てはめると、目安はおよそ52,800円です。ただし、海外市場の過去データから出た数字で、将来の成果を約束するものではありません。裏返せば、一括投資が上回らなかった場面も26.3〜38.4%ほどあったことになります。
10年先まで置いておけるお金なら、何が変わる?
GPIFの長期分散投資の解説では、国内外の株式・債券に均等に分けた100万円のシミュレーションで、1年間の運用では元本割れの年があった一方、10年間の運用では元本割れがなかったと示されています。良い年と悪い年の成果が相殺され、期間全体で収益が積み上がる傾向があるという説明で、過去の実績であり将来を保証しないとの注記も添えられています。
この説明を読んで、私たちは「一括か積立か」より先に、「このお金を何年置いておけるか」を確かめる順番に切り替えました。入れ方の違いよりも、置いておける年数のほうが、揺れとの付き合い方を大きく左右すると考えたからです。
私たちは、どこに線を引いた?
話し合いの末、二人で整理した見方は次の三つです。
- 使う時期で分ける:10年以上置いておけると言えるお金かどうかを、入れ方を考える前に仕分ける。
- 下落への気持ちを正直に見る:数字の上で一括投資が上回りやすいとしても、下がった直後に手放してしまえば意味が薄れる。2020年の自分たちを思い出して考える。
- 枠の上限から逆算する:年間360万円の枠で1800万円を埋めるには、最短でも5年かかる。一度に入れられる額には、もともと上限がある。
一部を成長投資枠で先に入れ、残りをつみたて投資枠で分けていく中間の形もあります。どの割合なら落ち着いていられるかは家計や性格によって違うので、私たちの線引きをそのまま当てはめる必要はありません。制度の全体像は新NISAのつみたて投資枠・成長投資枠と非課税保有限度額の基本で、分けて積み立てたときの将来の金額は毎月の積立額と期間を入れて試算する手順で確かめられます。
次の見直しの前に、紙に何を書く?
一度に入れるか毎月に分けるかは、数字だけでも気持ちだけでも決めきれない問いでした。手始めに、手元のまとまった資金を「10年以上使わないお金」と「それより早く使うかもしれないお金」の二つに分け、金額を一行ずつ書き出すところから始めてみませんか。その線が引けると、入れ方の話はずっと具体的になっていきます。